東京地方裁判所 昭和44年(行ク)10号 決定 1969年2月26日
東京都港区芝公園八号地の二総評会館内
春斗共斗委員会議長
申立人 堀井利勝
右代理人弁護士 佐伯静治
<ほか四二名>
東京都千代田区霞ヶ関一の一一
被申立人 東京都公安委員会
右代表者委員長 堀切善次郎
右代理人弁護士 沢田竹治郎
<ほか二名>
右代理人警視長 下稲葉耕吉
<ほか五名>
申立人は、昭和四四年二月二五日、当裁判所に対し、行政処分取消しの訴え(昭和四四年(行ウ)第四〇号)を提起し、あわせて処分の効力を停止する旨の裁判を求めたので、当裁判所は、当事者の意見をきいたうえ、つぎのとおり決定する。
主文
申立人の昭和四四年二月二一日付集団示威運動許可申請に対し、被申立人が昭和四四年二月二五日付でなした別紙三の二記載の許可に付された条件のうち、つぎの部分の効力を停止する。
「公共の秩序を保持するため、申請にかかる集団示威運動の進路をつぎのとおり変更する。
日比谷大音楽堂―西幸門―霞が関派出所前交差点―大蔵裏交差点左―三年町交差点―溜池交差点左―虎の門交差点―西新橋一丁目交差点―新橋大ガード下―銀座口交差点左―土橋(解散地)」
申立費用は、被申立人の負担とする。
理由
一 申立ての趣旨および理由
別紙一の一、二記載のとおり
二 被申立人の意見
別紙二記載のとおり
三 当裁判所の判断
1 本件申立てと疎明によれば、申立人が春斗共斗委員会の議長として、昭和四四年二月二六日対政府要求(大巾賃上げ、物価値上げ反対、減税、合理化反対等)を広く国民各層に訴えるため、日比谷野外音楽堂で集会を開催した後、日比谷公園西幸門から新橋土橋まで集団示威運動を行なうべく、昭和四四年二月二一日、昭和二五年東京都条例第四四号「集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例」(以下「都公安条例」という。)一条に基づき、被申立人に対し、別紙三の一記載のとおり、右集団示威運動の許可を申請したこと、および被申立人が同月二五日付をもって、別紙三の二記載のとおりの条件を付してこれを許可したことが認められる。
以上の事実関係のもとにおいては、集団示威運動の本質にかんがみ、行進の進路の変更に関する本件申立てについては、処分により生ずる回復の困難な損害を避けるための緊急の必要があるものと認めるのが相当である。
2 つぎに、本案につき検討する。都公安条例三条一項によれば、公安委員会は集団示威運動の実施が公共の安寧を保持する上に直接危険を及ぼすと明らかに認められる場合のほかは、これを許可しなければならない旨を、また公共の秩序を保持するためやむを得ない場合には進路を変更することができる旨を定めているので、本件進路変更の条件を付するについて、「公共の安寧を保持する上に直接危険を及ぼすと明らかに認められる場合」または「公共の秩序又は公衆の衛生を保持するためやむを得ない場合」であったかどうかについてみるに、疎乙第一二号証の一によれば、本件主催団体が主催した昭和四二年六月三〇日の春斗第六次統一行動に際し国会周辺において、その参加者の一部の者が停滞したり、あるいはだ行進するなどして交通が一時渋滞したことが認められるが、かかる条件に違反する行動があれば事後においてこれを取り締ることができるのは当然であるから、これらのことがあったからといって直ちに本件におけるように事前に進路を変更することができると解するのは相当でない。また疎甲第一六号の二によれば、本件主催団体の主催した集団示威運動は、従来、全体としては整然と秩序をもって行なわれたことが認められる。その他本件全疎明を検討しても本件進路変更の条件を付するにつき、前記の「公共の安寧を保持する上に直接危険を及ぼすと明らかに認められる場合」または「公共の秩序又は公衆の衛生を保持するためやむを得ない場合」に該当することを認めるに足りる資料もない。したがって、「本案について理由がないとみえる」とはいえない。
なお、被申立人は反戦青年委員会が本件集団示威運動に参加するおそれがあると主張するが、前示疎甲第二五号証によれば、同委員会は組織としてはこれに参加していないことが認められる。もっとも、疎乙第一五号証によれば、同委員会に所属する若干の者が本件集団示威運動に参加することが推認されるが、疎甲第二八ないし第三〇号証によれば、これらの者も本件主催団体の指揮命令に厳に服するものなることが認められるので、たとえ右の者らが本件示威運動に参加しても国会内に侵入し、審議を妨害する等の違法行為をなすおそれがあるというべきではない。
3 被申立人は、本件進路変更の条件を付したことは国政審議の行使の公正を図り、国会議事堂周辺の静穏を保持するためやむを得ない処置というべく、これによって申立人の行動に多少の制限がなされたとしても、そのことをもって本件進路変更の条件付許可処分が違法視される理由はないと主張するが、しかし、本件疎明によれば、当日の国会審議はおおむね本件集団示威運動の開始される午後七時頃にはほぼ終了しているものと予測され、仮に当日一部の委員会に時刻を超えて審議が続けられることがあるとしても、本件集団示威運動には前示のような交通秩序維持に関する条件、危害防止に関する条件、秩序保持に関する条件等の厳しい条件が付されているのであるから、本件集団示威運動が右諸条件に従って整然と行なわれるかぎり、国会審議権の公正な行使を阻害するものとは考えられない。
4 よって、申立人の本件申立ては、これを認容すべきものとし(この場合、行進の進路は本件許可申請書記載のとおりとなるものと解する。)、申立費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、本文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 杉本良吉 裁判官 中平健吉 裁判官 岩井俊)
<以下省略>